#43 関係ねえよ [クロスゲーム]
「関係ねえよ。一位は一位だ」
by,喜多村光(クロスゲーム)
何が起こるかわからない。
人生はいつもそうだ。
何かしらのアクシデントがあり、それが良いほうに転んだり、悪いほうに転んだりする。
月島若葉の死から、4年が経った。
喜多村光の中には、まだ若葉がいる。
若葉に「コウ」と呼ばれていた。
「コウ!」
光の後ろで、自分を呼ぶ声がした。
しかも、誰かにどことなく似ている。
若葉を幻想したが、振り向くと、小学4年生になった紅葉であった。
若葉の妹である。
若葉が亡くなったのは、小学5年生のとき。
そのときの若葉と今の紅葉は、まったく変わりばいがない。
スイミングスクールの帰りの紅葉は、たまたま光を見かけたのだ。
「少しは泳げるようになったのか?」
(光)
「バカ言え!この夏、校内水泳大会四年生女子50m自由形で一位だぞ!」
(紅葉)
「へーそいつは失礼を」
(光)
「ま、優勝候補二人が棄権してたけどね」
(紅葉)
「関係ねえよ。一位は一位だ」
by,喜多村光
そう、関係ない。
一位は一位で、優勝候補の人が来てても勝てたかもしれない。
それに、そこにコンディションを合わせられなかったのも、そこまでの実力であったのかもしれない。
誰にもわからないが、結果は結果である。
タカセ
#28 泣けばいいんだ [クロスゲーム]
「泣けばいいんだ…」
by,喜多村光(クロスゲーム)
悲しいとき、人は何をすればいいのか。
悲しみは、人が何をすればいいのかを忘れさす力がある。
6月10日。運命のように二人は、同じ年の同じ日に同じ病院で生まれた。
喜多村光と月島若葉。
若葉は、光が誕生日のプレゼントを選ぶのが下手なため、20歳までの誕生日プレゼント一覧表を作った。
そこにはブローチやサンダル、ピアスなどが歳別に記されていて、20歳には『婚約指輪』と記されていた。
いつかは結ばれる二人であった。
しかし、キャンプへと出かけた若葉は、その前夜に光と約束をしていた。
「明後日の夕方には帰ってるからね。
その次の日は夏祭りに行くんだからね。コウ。オヤスミ」
(若葉)
若葉はそう言い残した次の日、キャンプへと出かけた。
そのキャンプで若葉は亡くなった。
光は、若葉に貸していた帽子を若葉の父親から返された。
少し汚れているその帽子をかぶり、光は約束の夏祭りに行く。一人で……。
夏祭りにでかけたものの、光は何をすればいいのかわからない。
ただ歩いて、ボーッとするだけで、終いには電信柱の下に座る始末である。
そのとき、若葉に片想いをしていた赤石が、若葉の家の前で合掌をしながら涙を流していた。
それを見た光は、やっと気づいた。
「そっか…かんたんなことなんだ。泣けばいいんだ…」
by,喜多村光
途方に暮れる瞬間とは、まさにこのことであると思う。
最愛の人を亡くしたときに、人は何をするのか。
空っぽの心には、何をしてもダメで、目から涙を流すしかないのかもしれない。
タカセ